2005年11月に家の近くの図書館で手に取った日経新聞に俳優の仲代達矢の「私の履歴書」が連載されていた。そこには、俳優仲代達矢が自分自身の弱さを克服して、俳優として成長してゆく姿が描かれていた。子供のころから人前に出ると足がすくみ、ひざがガクガクしていた彼は、俳優としてまだ駆け出しのころ、芝居で食っていこうとするなら度胸をもっとつけなければならないと思い、自分を改造することに懸命になっていた。
彼が思いついたのが電車の中での稽古だった。俳優養成所から家に帰る夜の京王線で進行方向を背にして車両の一番前に立って、「私は俳優の卵です。これから芝居の稽古をします」と叫んだ後、詩を朗読したり太宰治の文章を大きな声で読んだりしていたそうである。

 この仲代達矢の「私の履歴書」を手にしたころ、引っ込み思案のところがある自分でも人を感動させるような雄弁力を身につける方法がないかと模索していた私は、仲代達矢のように電車の中での稽古をするわけにはいかず、さりとてこれといった雄弁力を向上させる確かな方法を見つけることもできず途方に暮れていた。
そんな私にトーストマスターズクラブの存在を教えてくれたのは、知人のK君だった。K君は自身がトーストマスターズクラブでアイスブレーク(自己紹介のスピーチ)やテーブルトピックスピーチ(即興スピーチ)をしたことをイキイキと話してくれた。彼の話しを聞いて、“これだ!”と思った私は、早速インターネットでトーストマスターズクラブのことを調べて、勤務地の近くのトーストマスターズクラブの門を思い切って叩いてみた。その門の向こうで私を待ち受けていたのは、ゲストを歓迎する暖かい雰囲気、メンバーの熱い向上心、人間的にも素晴らしいスピーカーの面々、笑いと感動のスピーチ、実証済みのマニュアル、中身の濃い例会プログラム、励ましのフィードバックだった。
最初にトーストマスターズクラブの門を叩いてから2年近くが経とうとしている。私の雄弁力の方は、まだまだ道半ばといったところであるが、トーストマスターズクラブに入会して本当によかったと思う。あのときから、K君とは会っていないが、次にK君と会ったときは、トーストマスターズクラブのことを話してくれたことについてのお礼を述べるとともに、トーストマスターズクラブの話で盛り上がりたいと思う。
 
 東京インターナショナル・トーストマスターズクラブでは、メンバーが全員“Learn by Doing”をモットーにスピーチを学んでいる。かの吉田兼好が著した徒然草の150段にも“Learn by Doing”の必要性を示唆しているくだりがあるので、少々長くなるが本稿の読者の励みになるようここで紹介しておきたい。
「一芸を身につけようとする人は、『まだ下手な間は、うかつに、人に知られないようにしよう。ひそかに習得してから人前に出れば、それこそたいへんりっぱに見えるだろう』と言いがちであるが、こんなことを言う人は、一芸も物にできないのである。まったく芸が未熟なうちから、上手な人の中に交じって、けなされたり、笑われたりしても意に介さず、平気でその時期を過ごして打ち込む人は、天分はなくても、中途半端な状態にとどまらず、自己流に走らないで年を送れば、天分はありながら集中力のない人よりは、最後に名人の域に達し、長所も伸び、人から認められて名声を得ることになるのだ。」
 
 私の「私の履歴書」には、東京インターナショナル・トーストマスターズクラブで楽しく愉快に“Learn by Doing”していることを忘れずに記しておきたいと思う。
Toastmasters!!!